ワールドトリガー10巻感想「さすがおれの相棒だ」

ワールドトリガー 10 (ジャンプコミックス)
葦原大介

6巻から続いたアフトクラトルによる大規模侵攻に、とうとう終止符が打たれます。しかしこの戦いで失われたものはあまりにも多く、歩みを止めない世界はボーダーを放っておいてくれません。そしてなんと人々の怒りと悲しみが、修の過去の”ある一つの過ち”にその矛先を向けてしまいます。修の、たった一人の、もう一つの戦いの結果は…!?

そしていよいよB級ランク戦が開始します。玉狛第二チーム、遠征部隊(A級)を目指して駆け上がれ!

同作品記事はこちらのリンクでまとめました。
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ハイレインの「卵の冠(アレクトール)」によってキューブにされてしまった千佳を抱えて、今まさにボーダー基地本部に逃げ切ろうとすると、それを阻止するためにさし迫るハイレインミラの二人。

前巻で出水が「トリオン(体)にしか効かない」と暴いたハイレインの「卵の冠(アレクトール)」の攻撃を無効化するためにトリガー解除した修ですが、その生身の修をミラが容赦なく串刺しにします。

しかし修はあきらめません。

吐血しながら修が気力を振り絞ってとろうとする最後の行動、それは「レプリカを敵の遠征艇につながる大窓(ミラの黒トリガーによるもの)へ投げ込み、遠征艇をクラッキングするというものでした。

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もともとエネドラが本部を襲撃したときに開かなくなったボーダー基地の扉の解析もまだ途中だった上、近界民(ネイバー)のシステムに長けたレプリカなら短時間で敵の遠征艇のシステムも解析・侵入できるため、これを利用しない手はありません。一石二鳥です。

修の狙いに気づいたハイレインも修を殺そうとしますが、それをC級隊員の射撃遊真の『射印(ボルト)』、そして三輪の風刃による斬撃がそれぞれ修を援護し、修はレプリカを投げ入れることに成功します。(実はこの米屋が「撃てェ!!!」というシーンが個人的にお気に入りです。)

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ここで修の命を救う一番の決め手となったのは、三輪の攻撃でした。

レプリカは一瞬で敵の遠征艇のシステムを乗っ取り、「帰還」命令を実行します。これにより、残りわずか60秒で敵の遠征艇は緊急発進せざるを得なくなってしまいました。

時間が無いハイレインは、倒れて動けない修からトリオンキューブを取り上げますが、そのトリオンキューブが千佳でないということに気づきます。

そう、それこそが修のもう一つの策でした。

前巻でハイレインと三輪が戦っている最中に放ったアステロイドを防がれたときにできた”ただの”トリオンキューブを、修は替え玉として持ち続けていたのです。

やむを得ず千佳を諦めるハイレインですが、このとき一つ気になる言葉を残します。

「「金の雛鳥」を逃した以上 予定通りヒュースはここに置いて行く」

なぜ千佳を諦めることと、戦士であるヒュースを置いて行くことが関係あるのか分かりません。この疑問はアフトクラトルそのものの謎(そもそもなぜ千佳を金の雛鳥と呼び、それにこだわったのか)にも関連するだろうと思います。

そしてミラの攻撃を受けて損壊していたレプリカも、遠征艇の中で動けず、敵の帰還に巻き込まれてしまいます。

「…………オサム お別れだ ユーマを頼む」

レプリカがこの言葉を修に残した刹那、ハイレイン達の遠征艇は帰還し、暗く淀んでいた空が晴れわたります。アフトクラトルによる大規模侵攻は、ようやく収束を迎えたのです。

とはいえまだ敵が全滅したわけではありません。残ったトリオン兵たちが市街地へ向かい人を攻撃しようとするので、その掃討をしなければなりません。

小南一人ではもはや市民を守り切れない…、というところで、A級5位の嵐山隊と、さらにA級6位の加古隊が加勢にきます。

加古さんの初登場により、まだ顔が分からないA級チームの隊長は、4位の草壁を残すのみとなりました。

一方で迅に足止めされ続けていたヒュースは、味方の撤退を受けて呆然とします。迅は修と千佳の一命が取り留められたことに安堵しつつ、なんとヒュースへの投降を呼びかけます。

「なんか事情があるんだろ? おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

やはり迅は人型近界民相手にも、2枚も3枚も上手ですね~。ハイレインですら、この戦いでの敗因を振り返り、まるでそれらが何者かに仕組まれていた気さえする…と感じるほどでした。

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ともあれこの大規模侵攻によって、ボーダー本部でエネドラに通信オペレーター達が6人殺害されただけでなく、新型トリオン兵ラービットによってC級隊員も32人も攫われてしまいました。

死者6名、行方不明者32名というのは、とても重大な災害です。戦いの爪跡は大きいと言えるでしょう。

ちなみにラスト2ページで「この結果はおまえの予知の中ではどのあたりの出来だ?」と城戸司令が迅に尋ねるシーンが好きだったりします。それに続いて城戸司令が最後に「御苦労」とねぎらうシーンも。

 

重傷を負った修は長い期間ベッドで横たわります。その夢のなかで、いくつも新たな事実が判明します。

それは千佳の兄である麟児が、失踪直前に近界民の「門(ゲート)」をつぶす画策を修に打ち明けていたこと、そして修は一度ボーダー入隊試験にトリオン量不足で不合格になり、直談判のため不法侵入しようとしたところを迅に助けられていたということです。

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夢から覚めた修のもとに遊真がやってきて、レプリカがどうなったのかについて、宇佐美が徹夜で調べた結果を打ち明けます。

「レプリカは生きてる アフトクラトルに行けばきっとまた会える ……A級目指す理由が増えたな」

そう笑顔で言う遊真に対して、修は自分の非力のせいでレプリカが犠牲になったことを詫びようとしますが、遊真はそれを止めます。ここも良いシーンなんです。

 

そして病室から戻る修と遊真のもとに、意外な来訪者が現れます。

それはボーダー本部上層部の外務・営業部長の唐沢さんでした。

唐沢は修と遊真と修の母、そして千佳の四人を、今回の大規模侵攻についてのボーダー記者会見に連れていきます。

そこで初めて修はC級が32人も攫われたことを知ります。

記者会見ではボーダーのメディア対策室長の根付さんが、記者の厳しい質問に余裕をもって答えていました。

…しかし少し風向きが変わります。

なんと記者の一人が、今回の大規模侵攻で訓練生であるC級隊員が狙われた件について、もしかしたら近界民(ネイバー)に「訓練生は緊急脱出できない」と知られていたのではないかと尋ね、そのうえ、先月の私立第三中学の近界民出現時に訓練生がトリガーを使った目撃談があるが、それが原因なのではないか、と根付さんに問いかけてきたのです。

なぜこの記者がこのような極秘情報を知っているのか…、それはこの記者が根付さんの仕込みだったからです。

つまりこの記者は、マスメディアの矛先をボーダー全体から一人の訓練生に誘導するためのサクラだったということです。

まさか少年ジャンプでこんな展開がくるとは思いもしませんでした。

唐沢さんが修をこの記者会見の場を見せたのは、”その訓練生そのもの”である修に何も知らせないわけにはいかなかったからです。

修はひどく胸を痛めます…、それもそのはずで、この記者が言っていることは正しく、アフトクラトルにC級隊員がベイルアウトできないことを知られてしまった原因が修であるのは、紛れもない事実だからです。

どうもできないと歯をかみしめうなだれる修に、修の母親が声をかけようとしたその瞬間、遊真が初めて(すみません二巻以来二回目です)あのセリフを修に言います。

「オサムおまえ つまんないウソつくね 病院で頑固な性格まで治してもらったのか?」

その一言をきっかけに修は記者会見に殴り込みに行きます。

実は唐沢さんの狙い(望み)もここにありました。2巻のころから修を気にかけていた唐沢さんですが、まさかこのようにして伏線が回収されるとは思いませんでしたね。正義感の強い主人公を応援する大人の存在を示してくれるのは、読者としても安心できます。

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この記者会見での修の雄姿は、ぜひ単行本でご覧ください。

 

そしてまた時は流れ2月1日、いよいよボーダーB級ランク戦が始まります。

修と千佳と遊真も、玉狛第二チームとしてこれに参加します。

このランク戦のしくみはいたって簡単で、3チームor4チームのバトルロイヤル戦を行い、よその隊員を倒せば1pt、最後の一人が生き残ったチームに2ptが与えられるいうルールです。

そしてシーズンの最後にB級1位と2位のチームがA級への挑戦権をもらえます。

ただし各チームにはそれぞれ前シーズンの順位に応じた初期ボーナスがついています。つまり初参加の玉狛第二チームは最下位の21位から始まります。

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その玉狛第二チームのデビュー戦が、ランク戦初日の今日にあります。

修はまだ傷が完治していないので遊真と千佳の二人でデビュー戦に挑みますが、普通に考えてヴィザにも勝った遊真がB級下位のチームに負けるはずがありませんよね(笑)

トリオンモンスターである千佳の砲撃も、観客達の度肝を抜きます。

気持ちの良いデビュー戦で、これも本誌で読んでいてキターと興奮しましたね。

 

あっというまにB級中位に上がった玉狛第二チームの次の相手は、大規模侵攻でも活躍したあの隊あの隊です。(どの隊だよw!)

リーダーである修がどの地形を選び、格上相手にどのように挑むのか、このランク戦では地形戦としてもワクワクする展開が待っています。またようやく玉狛第二チームの隊服もお披露目されます。これがすごく燃えるんです。

 

この10巻以降ランク戦と新キャラ続々登場で、次の巻が気になる展開が続きます。

いやもうほんと、がんばれ修!(ジャンプ2015年37・38号読んでの感想)

 


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