こちらの記事は以前投稿した
ワールドトリガー弧月製作記その1等(3Dモデリング)
ワールドトリガー弧月製作記その2等(3Dモデリング)
の続きです。なんと最初にモデルを作り出してから6年も経っているのですが、今まで何度か3Dプリンタ造形を外注依頼して、刀として抜き差しも出来る形が試作できたので作例を公開したいと思います。
項目は以下の通りです。
1. 弧月3Dモデルについて
前回ラストから刀身の輪郭は変更しておりませんが、分割方法を変更しました。
以前は上下と縦に割る四分割モデルでしたが、刀身も鞘も上下二分割のみに変更しております。(内部に磁石を入れることもやめました)
旧モデル(四分割、前回記事より)
新モデル(二分割)
また先端を丸めたり、パーツ同士のクリアランスを変更したり、と細かい修正を加えております。正直あまり綺麗な3Dではないです…。造形業者のモデルチェックさえクリアできればOKのスタンスで進めています。
更に今回は720mmサイズのオリジナルモデルから、長さ方向を600mmに短縮したものも用意しました。安価で大型造形ができるナイロンはこのサイズなら一発で作れるため、720mm分割→アクリル、600mm一体→ナイロンで造形外注しております。
何故ナイロンで720mm分割を作らないの?と思った方もいると思いますが、実はナイロンは非常に接着しにくい材料です。接着前提の分割モデルを造形しても、その後の接着作業で行き止まりになるのです。(もちろんナイロンにも使える接着剤は存在します。ただし弾力があるためプラモデルの接着のように”合わせ目を消す”ことはできません)
2. 造形見積と材料の特徴
金額情報は誰しもが気になるところなので、今回もざっくり公開します。
ただし業者名については伏せさせて頂きます。(一般的な外注業者です)また出力後の後処理や塗装作業等は依頼しておりません、純粋な3D造形、サポート除去、送料の金額です。
<ナイロン600mm一体>
部品 | 材料 | 色 | 金額(円) |
---|---|---|---|
柄 | ナイロン | ホワイト | 3,500 |
刀身 | ナイロン | ホワイト | 5,000 |
鞘 | ナイロン | ホワイト | 14,000 |
合計 | 22,500 |
<アクリル720mm分割>
部品 | 材料 | 色 | 金額(円) |
---|---|---|---|
柄 | クリアアクリル | クリア(無色) | 12,000 |
刀身(根元) | アクリル | ブルー | 15,000 |
刀身(先端) | アクリル | ブルー | 15,000 |
鞘(根元) | クリアアクリル | クリア(無色) | 25,000 |
鞘(先端) | クリアアクリル | クリア(無色) | 25,000 |
合計 | 92,000 |
サイズが多少異なるので厳密な比較ではありませんが、アクリルはナイロンのおよそ4倍の金額です。しかし値段相応にアクリルは造形物の表面がなめらかで綺麗ですし、クリアも選択できる魅力があります。ナイロンは安価ですが塗装下処理の研磨が大変です。また部品同士の接着も難しいです。
材料の特徴をまとめると以下の通りです。
<ナイロン>
- 安価
- 大サイズの部品が造形可能(上限目安650mm)
- 接着性が悪い(塗装はできる)
- 塗装に辿り着くまでの研磨作業が大変
(結論)ナイロンは研磨、塗装作業を頑張れる人向けの安価な材料。今回は600mm一体モデルを造形。
<アクリル>
- 高価
- 中サイズの部品が造形可能(上限目安480mm)
- 接着性が良い
- 塗装不要(造形後の表面が綺麗)
(結論)アクリルは高価だが最低限の作業で完成品を用意できる材料。今回は720mm分割モデルを造形。
ちなみに今回のナイロンとアクリルの造形物を見ると、側面に積層ピッチを確認できました。(画像の赤矢印)つまり完全に寝た向きではなく、横向きに寝た格好で積層しているようですね。刀身も柄も同様です。
3. 小道具、ツールについて
3.1. 小道具
- ベルト
- 取付用シャックル(M3)x2
このコンセプトは前回から変わりません。
また鞘の留め具(今回は形だけそれっぽく再現している)部品のスナップボタン(丸の出っ張り)部分は塗装の代わりに
- 丸シール(カラーラベル)
で済ませるという手もございます。(今回の作例では特に塗装もシールもしていません)ざっと検索したところモデルと同じφ10mmの丸シールは見当たりませんが、φ9mmでもほとんど違いは目立たないと思います。
3.2. 必要ツール(ナイロンの場合)
工作道具類について材料別にまとめました。(あくまで一例です)
- 紙やすり(#120~#1000)
- 紙やすり用の当て木(←ほぼ必須)
- スポンジやすり(←ほぼ必須)
- 精密マイナスドライバー(シャックル用)
- エアダスター(内部の粉末除去用)
- 両面テープ(刀身と柄の接着用)
- マスキングテープ
- 養生テープ
- はさみ
- カッター
- カッターマット
- 定規
- サーフェイサー(今回は缶スプレー)
- 塗料(今回は缶スプレー)
- その他塗料用具(筆、溶剤、皿、キッチンペーパーなど)
作例でも何を使用するか解説します。強いて先に補足するならば、紙やすりの#120と#240はよく使います。(画像は当て木に#120等を貼ったものです)
今回は全て手でサンディングしましたが、熟練者はグラインダーやベルトサンダー等をご使用ください。また刀身は両面テープで柄に取り付けます。(後から刀身を付け替えできるように)
3.3. 必要ツール(アクリルの場合)※塗装しない前提です
- 紙やすり(#240か#400、鋭利な先端をちょいちょいっと削るだけ)
- 精密マイナスドライバー(シャックル用)
- アロンアルフア
- マスキングテープ
- はさみ
アクリル専用の接着剤を用意する必要はありません。速攻多用途のアロンアルフアを1, 2滴使うだけでガチガチに固まります。ただし接着の際には接着剤が製品面に誤って垂れないように、あらかじめマスキングテープで養生しておきます。
4. 作例(ナイロン600mm一体)
ナイロンは作業工程が少し多いですが、ざっくり以下の通りです。
4.1. 内部の粉末落とし
詳しい方はご存知と思いますが、ナイロンの3Dプリンタ造形は粉末を焼結させていくため、出来上がりは未硬化の粉末に埋もれた状態です。もちろんその粉末は業者で綺麗に吹き飛ばされてから配送されますが、届いた造形物の表面が多少粉っぽいことはよくありますし、今回の鞘と柄のような形状の場合、粉末が中に残ることがあります。(こればっかりはしょうがないです)
まず柄の中に残った粉末は串などで掻いて、エアダスターを吹いた後にトントンします。ある程度で済ませますが、後で塗装時にひっくり返したら中から粉が落ちてきた(よりにもよって最悪のタイミングで!)というマーフィーの法則が起こりがちなので、塗装の際には少し気を付けます。
次に鞘の方は、こちらもエアダスターを吹いてからトントンします。刀身を抜き差しすると粉が落ちてくることもありますが、力を入れて刀身で中をかくような無茶はやめましょう。(また水洗いは試しておりません。狭い奥に水分が溜まるため)
鞘内部の奥の粉末はどうしても残ります。塗装後に刀身を抜き差ししても先端に粉が付くことがありますので、羽ぼうきなど用意しておくとベターかもしれません。
4.2. 先端の角落とし
刀身は試作を何度か繰り返す中で先端を丸めていきました。しかしそれでも鋭利な箇所が残っているため、#240を当て木(当て板)に貼って、ちょいちょいっと削って角を落とします。
ほんの15秒程度の作業ですが、角はできるだけ早めに落とした方が良いです。理由は後の作業時に引っかかったりすると先端が大きく欠ける恐れがあるためです。
4.3. フィットチェック
以下三か所を仮組チェックします。
- 刀身と柄
- 刀身と鞘
- シャックルピン(φ3mm)と鞘のラグ穴(φ3.6mm)
刀身が柄にスッと入らない場合は、#120か#240を当て木に貼って刀身のベロ部分の曲面を平らにするように削ります。(ちょっと削ってから入れてみるの繰り返し)柄に隠れるベロ部分と製品(刃)側の境界は溝を切っております。ただし研磨で手を動かすと刀身に紙やすりが当たる可能性があるためあらかじめ刀身はマスキングテープと養生テープで養生しておきます。
おそらくこの研磨作業で「ナイロン固いな!」と気づくと思います。
また今回作成する刀身は両面テープをベロ部分に貼って柄に固定します。接着剤は使用しません。ですから多少削り過ぎて隙間が大きくなっても、両面テープを重ねれば良いだけなので問題ありません。
4.4. 研磨(塗装下処理)
それでは加工を開始します。今回の研磨は大体
「#120→#240/#320→サフ(#500、凸凹確認用)→再度#240→#400/#600/#800/スポンジヤスリ→サフ(#1000)→スポンジヤスリ」
の流れで行いました。
改めて言いますがナイロンは固いです。まずは積層ピッチの筋と段差を消すために、当て木に#120を貼ってゴリゴリ削ります。(ゴリゴリやってもちょっとずつしか削れません)
広い範囲を削る場合は、あらかじめ黒スプレーを薄くかけておくと削った箇所が分かります。また削るときはぐるぐると円をえがきながら進める、と言うのを繰り返していきます。(力の加え方のイメージです)
まず#120研磨後はこのようになります。真ん中の段差はモデルの分割ラインと異なるため製造上の仕様だと思います。しかしこの段差は結構厄介でした。特に鞘の研磨を手でやるのはなかなか大変でしたので、熟練者の方はグラインダーやベルトサンダー等を使うと良いと思います…。
次に#240, #320で全体を研ぎます。その後様子見で#500サフ吹きしました。
目立つ凸凹(丸で囲った箇所)を#180, #240でサフごと落としながら、一通り全体を#400, #600, #800 で研ぎます。その後サフ#1000を吹いて、スポンジヤスリ(ウルトラファイン)を使って表面を滑らかにします。
ナイロンの接着性が悪いのもあるかもしれませんが、サフの後にサンドペーパーを使って液だれした部分等をならそうとすると、サフごと剥がれてしまうことがよくありました。
そんなときの強い味方がスポンジヤスリです。サフ#1000の後にウルトラファインで磨くとすべすべになります。
4.5. 塗装
塗料は以下の色を使用しました。
- シルバーグレー(柄、鞘)
- ホワイト(刀身下地、柄の模様部分)
- 蛍光グリーン(刀身、柄の模様部分)
- ブラック(鞘の留め具部分)
- つやけしとうめい(全体トップコート)
月並みですが、塗装は薄く重ね塗りします。(最低2回)
また柄の模様部分は最後の白だけ筆塗りしました。(スプレーを塗料皿に吹いて使いました)この筆塗りも乾いた後に表面をスポンジヤスリで整えると、ある程度綺麗になります。
柄や鞘のグレーはミスした場合筆でタッチアップしても目立ちませんが、刀身で使用する蛍光グリーンはタッチアップすると目立つので気を遣う必要があります。(失敗したら下地の白から塗りなおすのも一つの手かもしれません)
刀身は両面テープをベロ部分に貼って柄に固定します。接着剤は使用しません。
接着剤を使用しない理由は、そもそもナイロンに接着剤が効き辛いのと、後から別の刀身を付け替えできるようにするためです。刀身は研磨作業が少し大変ですが、塗装そのものは細かいマスキングが不要で他部品と色味を揃える必要も無いため、やる気さえあれば複数用意できます。(やる気さえあれば…)
5. 作例(アクリル720mm分割)
アクリルは塗装しないのでかなりシンプルです。しかし油断すると高価な材料が一発でダメになってしまうので注意が必要です(特に接着作業)。
5.1. 先端の角落とし
先端の角は鋭利ですし、引っかかると欠けてしまう可能性もあるため、ナイロンと同様に#400を当て木に貼って、ほんのちょっと削って角を落とします。(ナイロンより細かい番手の方が良いと思います)
5.2. フィットチェック
フィットチェックの仮組は、アクリルならではの注意点があります。確認箇所は以下の通りです。
- 刀身の接続
- 鞘の接続(要注意!)
- 刀身と柄
- 刀身と鞘(要注意!)
- シャックルピンと鞘のラグ穴
注意するのは鞘(根元)の接続部の薄肉です。特に要注意は「刀身と鞘」の仮組時で、
- あらかじめ刀身と鞘の接続部はマスキングテープで仮固定しておく
- 鞘は接続部を握って、鞘の接続部の面を外から抑えてあげる
ようにします。これを怠ると、下のように鞘の接続部に面外の力が加わって割れることがあります。(一敗)
5.3 接着
作業がほぼ不要なアクリルですが、この接着はかなり気を遣います。なぜなら接着性がとても良いからです。(良すぎるくらいです)
刀身の接続部、鞘の接続部、それから刀身と柄を接着していきますが、速攻多用途のアロンアルフアを1, 2滴使うだけでガチガチに固まります。向き(接続部)とずれに注意しつつ慎重に奥まで差し込み接着します。なお接着の際には接着剤が製品面に誤って垂れないように、あらかじめマスキングテープで養生しておきます(お約束)。また塗装の時はあまり触れませんでしたが、接着面に汚れやゴミがついていないことも確認しておきます。
アクリルの刀身はこのような感じです。(クリアではなく青色で出力しました)
ナイロン、アクリルの作例は以上です。
作例のまとめとして、アクリル(720mmを分割)、ナイロン(600mm一体)、ナイロン自前塗装を並べてみました。ちなみに後ろの壁のポスターはアーノルド・シュワルツェネッガー氏です。
6. スコーピオン作例
作例と言うほどでもありませんが、こちら追加でスコーピオンをアクリル造形依頼しました。長さは480mmで、厚みは2mm(下二つ、3年前出力)→3mm(上、1か月前出力)です。
3年程前に出力したモデルは黄色が薄いですが、これは「クリアアクリル(無色透明)」に後からクリアイエローを塗装したものです。
1か月前に出力した濃い黄色は「クリアイエロー」として着色指定で注文しました。板厚の違いはあるものの、最近のアクリル造形は本当に綺麗ですね。
最後に造形物を一通り並べて写真を撮りました。
紆余曲折ありましたが、なんとかブログにまとめるところまで辿り着けて良かったです。
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