『ハコヅメ ～交番女子の逆襲～』 泰三子
掲載雑誌「モーニング」（講談社）
内容紹介（公式サイトより引用）
ホワイトカラーにしてブルーカラー。
労働基準法は適用外！
安定収入を求めてたまたま警察官になった川合と、超美人＆刑事部のエースながらパワハラで交番に飛ばされた藤部長。
交番（＝ハコ）勤務女子二人の警察官あるあるお仕事備忘録！
管理者より
警察という仕事は、本当に過酷かつ理不尽な世界です。
他人を騙す、貶める、加害する、そんな法を越える者たちの相手をするのですから、それはある種の”戦争”に他なりません。我々一般市民とは異なるレイヤー（人間の営みに近いところ）で、しかも限られた人数で、身を粉にして市民を守り犯罪者を追いかける、そんな極限状態を警察官は業として背負わされるのだと、私は『ハコヅメ』を読んで思い知らされました。
しかしそんな過酷な仕事を、ときに面白く、ときに厳しく描いているのが『ハコヅメ』の凄いところです。このメリハリは、実際に10年警察を勤めた泰三子先生にしか出せないものだろうと思います。
そんなハコヅメを紹介する上で欠かせないのが、「似顔絵捜査官」の仕事です。この漫画では主人公の川合が犯人の似顔絵を描くことが何度かあり、そこから似顔絵捜査官としての才能を周囲に見出されていきます。しかしその川合が描く似顔絵が特徴的で、ほんとうに毎回クスっとくる出来栄えなのです笑
誰一人ふざけている訳でなく至って真面目なのに、決め手となる絵を見ると脱力してしまう…そんな似顔絵が、ハコヅメという漫画を象徴している気がしました。
また他のお話で特に笑ったのが、14巻の第121話で取調室で寝るくだりの「一人SAW」と、21,22巻の本部長関連のエピソードです。（SNSで感想を眺めていたら「本部長は『銀魂』の将軍枠」というツイートを見かけてさらに笑いました）
とは言っても警察漫画ですから、性犯罪も容赦なく真向から描かれます（もちろん直接的な性描写はありません）。
ハコヅメにはいくつかの長編シリーズがあり、最初の山場が3巻に来ます。その3巻のエピソードこそが、連続性犯罪事件の犯人を、主人公川合の（初めての）似顔絵をもとに捜査していく話となっております。
管理者イチオシの漫画です。まずは３巻まで読んでほしいです。
参考画像（画像クリックで引用話数表示）
（追記１）
ちなみに私が好きなキャラクターは、刑事課長の三鷹と、町山交番所長の伊賀崎の二人です。
三鷹刑事課長は、会社の昔の上司に似ていました笑 ああいう凄みと実力を兼ね備えたプロにはいつも憧れます。特に3巻第26話の銭湯での空き巣犯との会話が好きです。
そして何と言っても伊賀崎ハコ長！この伊賀崎ハコ長は、かつて20年前の薬物摘発事件のときに、相手の組織に長期間潜入捜査をしていた強烈な猛者です。その過去の薬物摘発事件（奥岡島事件）が絡む14～20巻あたりから、ハコヅメは”警察官漫画”から”警察漫画”になっていきます。
しかし敢えて不謹慎を承知で言わせてもらうと、私は後半のハコヅメの方が好きです。やはり警察ものは潜入、殉職、お礼参り…読んで胃がキリキリするようなハラハラ感と、清濁併せ呑む蛇の世界が一番面白いと思います。だから私は、そんな蛇の道を、誇りをもって進む蛇となる（作中では「ネズミ」と表現されます）伊賀崎ハコ長のハードボイルドがたまらなく好きなのです。
ちなみにこのような元警察官の闇と言えば、いがらしみきおの『かむろば村へ』も好きでした。
（追記２）
キャラクターの話でもう一点、、私は例えば『ワールドトリガー』のような作中の師弟関係にニヤニヤするタイプのオタクなのですが、『ハコヅメ』もその手の情報開示が上手い漫画だと思います。
ストーリーの展開に合わせて誰と誰が元上司・元部下だったのかを明かすことで、伏線回収とともに組織の重厚さを描写する。これも物語における一つの世界観の構築だと思います。
（追記３、ネタバレ注意）
最終23巻を読んだ人向けの感想です…。（ただの感想ですが、一応文字色反転しておきます）
苦しい展開でした。しかし一番現実的で、なおかつ考察しがいのあるエピソードだったと思います。実際の事件もおそらく、ドラマや漫画などのように分かりやすい解決など無くて、山場を超えたところで他の仕事の中に埋没していくのでしょう。これはもう「終わりの無いディフェンス」としか表現できません。
そしてその23巻の事件の一つである「藪さん事件」、これはモーニング本誌勢がどういう感想・見解だったか大いに気になるところです。個人的な感想を言うと、藪さんの証言も全面的に正とは断言できない、何かしら虚偽も含まれるだろうな…と思ってしまいました。（『弁護士のくず』や『Q.E.D. 証明終了』を読んできた勘がそう言う）
しかし真相は藪の中…です。そう、そもそもこのエピソードそのものが、芥川龍之介の『藪の中』に掛けたものなのです…。（他の方の感想でこれを知った時は驚きました）
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