千佳を捕らえるために修を猛追するハイレイン、これを阻止するためにボーダーが総力を結集して対抗します。その一方で、人型近界民で一番の使い手ヴィザと一人で戦う遊真の勝敗は…。今回もかなり密度の濃い第9巻です。
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冒頭まずはボーダー本部内での中村名人忍田本部長VSエネドラから物語は開始します。
前巻でボーダー本部の建物の壁を伝い、訓練室の壁を切り裂いてアクロバティックに登場した忍田本部長ですが、攻撃用トリガー弧月使いの太刀川の師だけあって、忍田本部長自身も弧月のオプション「旋空弧月」によって、離れたエネドラの体に斬撃を与えていきます。
その精度は、エネドラのトリオン体の「伝達脳」と「供給機関」をカバーする小さな硬質箇所(のダミー)を狙い当てる程のものでした。「ノーマルトリガー最強」の呼び名は伊達ではありません。
そしてついに忍田本部長はダミーを含めた全ての硬質カバーを斬り落とします。(①)
…が、しかしまだエネドラは健在しています。
なんと「弱点部分を硬質化させて防御している」という事実(先入観)を逆手に取り、忍田本部長に斬られる直前に、弱点部分を硬質カバーから外しておいたのです。
これは逆に言えば「弱点部分を防御せずに晒しておいた」ことにもなるので、エネドラの知略と胆力の高さが伺えます。
再び風上をエネドラにとられ、エネドラのガス(気体)ブレードによって忍田本部長は体内に攻撃を受けます。
いよいよボーダー絶体絶命か…?というところですが、まだボーダーの逆襲は終わりません。
「私の仕事はもう終わった」
忍田本部長の言葉とともに、もう一度諏訪隊のショットガンによる面攻撃が始まります。(②)
<<<↑…ここ!ここがこのエネドラ戦のポイントです。覚えておいてください。>>>
エネドラは再び弱点部分を硬質化させて(③)、さらにそのダミーを生成します。(④)
しかしはじめに硬質させたカバー部分に諏訪隊の弾丸が当たった時、その硬質カバーには「スタアメーカー」という目印がついていました。
つまりこれでボーダー側は、本物とダミーを識別できるようになったのです。
目印がついた本物の硬質カバーを、ステルストリガー「カメレオン」を用いてエネドラに近づいた笹森が斬ろうとしますが、これもまた通用しません。
「消えるトリガーはもう見た」
攻撃に転じるエネドラ、しかししかし、更なる斬撃が、とうとうエネドラの本物の硬質カバーを斬り落とします。
斬ったのは、ずっと訓練室で透明化し伏せていた風間隊の二人、歌川と菊地原でした。
さすがに急に現れたこの二人の攻撃に対して、エネドラに弱点部分を硬質カバーから取り出しておく余裕はありません。
歌川と菊地原は硬質カバーごと伝達脳と供給期間を破壊し、黒トリガー使いであるエネドラを撃破します。
この71話はもんのすごいハイレベルな攻防がたった一話に凝縮されているすごい話なのですが、ここでの攻防のポイントは、上記につけた注釈①~④の順番です。
①~④の順番が少しでも狂えば、ボーダーはエネドラに勝てませんでした。
例えばエネドラが硬質カバーのダミーを既に生成した状態で諏訪隊が面攻撃を加えても、本物の硬質カバーにマーキングすることは出来ません。
『一度忍田本部長が全ての硬質カバーを斬り落としたところに、諏訪隊がショットガンによる面攻撃を加える』
この順序によって、ボーダー側はエネドラの弱点のマーキングに成功したのです。誰だって危機迫れば大事なところから守ろうとしますからね。
忍田本部長が
「ダミーが一度ゼロになった時点で 隠密(ステルス)組が決める形は整っていた」
と言っているのは、そういうことです。
撃破されたエネドラですが、死んだわけではありません。トリオン体が破壊されただけで、生身の状態に戻っただけです。
そこに空間操作トリガーを用いる人型近界民のミラが現れます。
しかしミラはエネドラの腕ごと黒トリガー「泥の王(ボルボロス)」だけを回収し、エネドラを殺して去ってしまいます。(トリガーの攻撃は生身の人間相手に通じます。逆は通じません。)
ミラ曰く、エネドラの右目が黒いのは、エネドラの角(トリガー角(ホーン))が脳まで根を張っているためで、その影響が粗暴な言動としても現れていたそうです。
こうしてエネドラを倒したことで、ボーダーは本部基地のピンチをひとまず逃れます。
しかしまだ戦いは終わっていません。
敵の親玉ハイレインの狙いは驚異的なトリオン量を持つ千佳です。
ハイレインの黒トリガー「卵の冠(アレクトール)」は、魚や鳥といった生き物の形をした弾(たま)を飛ばし、それに触れたトリオン体やトリガー(アステロイドやシールドも含む)をキューブにしてしまうという恐るべき能力を持ちます。
前巻では修のミスによって千佳自身もキューブ化されてしまいました。
修はそのキューブを抱えてボーダー基地まで逃げ込もうとしますが、複数のラービットとハイレインがそれを追いかけます。
そしてハイレインが修に追いつくのを阻止するために、米屋、出水、烏丸といったA級隊員達がハイレインに対抗します。
つまりこの大規模侵攻の命運は、『修がキューブ化した千佳をボーダー基地まで運びきることができるか否か』に委ねられたのです。
ようやくお話が分かりやすくなりましたね。
まずはA級1位のシューター出水がハイレインと打ち合います。
ハイレインの動物形の弾を狙い落とす出水の誘導弾(ハウンド)の腕前に対して、ハイレインはさらに細かな虫型の弾を用意して、出水に数で攻め勝ちます。
しかし出水も反撃の糸口を見出します。
「てめーのトリガーは…… トリオンにしか効かねーと見た」
出水は炸裂弾(メテオラ)で周囲の建物を破壊します。その瓦礫がハイレインの頭上に落ちますが、生き埋めするほどの量にはなりません。
…しかし出水の狙いはハイレインを生き埋めさせることではありませんでした。
ボーダー基地屋上から、4巻での黒トリガー争奪戦にも参戦していた奈良坂(No.2狙撃手)、古寺、当馬(No.1狙撃手)の三人がハイレインを狙い撃ちます。
出水の狙いは、射線の邪魔になる建物を破壊して、ボーダー基地屋上からの狙撃を可能にすることだったのです。
その狙撃の精密さはハイレインの周囲を渦巻く魚達の隙間を縫ってハイレインに命中させて、出水に「変態だな!」と言わしめるほどです。
狙撃手の登場に対してハイレインは、ボーダー基地手前に待機させていたミラとラービット2体を屋上に向かわせ、狙撃地点の差し押さえを行います。
このとき初登場したA級2位隊長、特殊工作兵(トラッパー)の冬島の活躍により奈良坂達はラービットから距離を取ることに成功しますが、狙撃地点を押さえられてしまったままにらみ合いになります。
ミラの増援によって狙撃は不可能になってしまいましたが、ハイレインにダメージを与えることには成功しました。
傷から漏れだすトリオンと、高性能な黒トリガーに今まで使用してきたトリオンを考えて、ハイレインのトリオン切れも近い…、そう踏んだ出水でしたが、ハイレインの黒トリガー「卵の冠(アレクトール)」は、その予想を上回り、キューブ化させたトリオンを卵に戻すことで、ハイレインの体を修復し始めたのです。
完全に上回れられた出水は、なすすべ無く緊急脱出(ベイルアウト)します。
…が、出水がやったことは無駄ではありません。十分に時間を稼ぎ、修とレプリカはもう基地まで残り3分というところまで近づいていました。
そして次にハイレインを食い止めるために、米屋と烏丸が現れます。
烏丸は修がもうすぐ基地に着くという連絡を受けて、持久力を無視した強化トリガー「ガイスト」を起動し、全開戦闘を始めます。
武器と脚にトリオンを流し込み攻撃力や機動性を上げてハイレインを追い詰めつつも、修が逃げ切るまでの時間稼ぎを行います。
しかしそこにミラが現れて、ミラの黒トリガーによってハイレインは、修が駆け込もうとしている基地入口へワープします。
そう、なんと食い止められていたのはハイレインではなく、米屋、烏丸のほうだったのです。
ハイレインの狙いは修の孤立でした。(未来の分岐点まで435秒)
ハイレインのトリガー「卵の冠(アレクトール)」がトリオン体以外に作用しないことを利用して、建物を突っ切ることで逃げ切ろうとする修とレプリカですが、ミラのワープ能力を用いた遠隔攻撃によって、修は逃げ場を失います。
またハイレインのクラゲ型の弾を足にぶつけてしまったことにより足が変形してしまい、さらにボーダー基地入り口を解析していたレプリカ(小)もミラによって破壊されてしまいます。
追い詰められてしまった修ですが、そこに最後のA級隊員の増援が現れます。
それこそがA級7位の三輪でした。
いや~ここまで引っ張ってきたか、という感じですね。
もっとも三輪さんはいつもの目つき悪い三輪さんのままです。
間違っても「俺も修を救うために戦う!(キラキラ)」ということはありません。
「ぼくがここで近界民を食い止めます!」とのたまう修を一蹴して、近界民は殺すというスタンスを貫いたままハイレインに挑みます。
と、ここで四年前の大規模侵攻で三輪の姉が殺されかけているシーンの回想が一瞬はいります。
おそらく三輪の姉はトリオン器官を取りぬかれたために死んでしまったのでしょうか、この一コマだけではなんとも言えませんね。
「知るか 他人に縋るな」
修を足蹴りにした三輪の行動は一見すると粗暴に見えますが、そもそも修がハイレインに挑んでもどうにかなるわけがないので、ある意味妥当な判断だと言えます。
なにより、まだ失われてもいない自分(修)にとって大事な人(千佳)の命を他人に委ねてしまう、という修の行為に腹を立てたのだろうと私は思います。
大事な人(姉)をかつて守れなかった三輪だからこそ。
さてA級7位の三輪にハイレインに対する勝機はあるのか…?と一見感じてしまうところですが、実はあるんです。
それは三輪の鉛弾(レッドバレット)がハイレインの「卵の冠(アレクトール)」では防げないという点、そして今までの出水や烏丸のハイレインとの戦闘データが蓄積されているという点です。
三輪はシールドをアステロイドのように細かく分割して、卵の冠(アレクトール)を防ぎつつ斬撃を与えます。
そして修はハイレインを三輪に任せて、基地へ駆け込もうとします。
もうここからは怒涛の展開が続きます。
- 三輪VSハイレイン
- 修VSミラ
- 遊真VSヴィザ翁
戦いは最終局面に入り、この9巻ラスト10ページで、未来を分岐させるフラグが確定します。
息を飲む攻防とその決着、そして大規模侵攻最大の伏線回収を、その目で確かめてください。
このハイレイン達の大規模侵攻編は次の10巻で終わり、また新たな展開が始まります。
10巻へ続く(未来の分岐点まで7秒)